病院に行くと大抵の場合、何らかの抗生物質が処方されます。昔、おなかを壊したとき(2010年2月1日の日記参照)はホスホマイシンを処方されました。
色々種類があるようなので、ちょっとした興味で調べてみたんですが、思っていたより抗生物質の種類は多かったよ……。
系統 | 例 | 作用原理 |
---|---|---|
β-ラクタム系 | ペニシリン | 細胞壁(ペプチドグリカン)に必要なムレイン架橋を阻害 |
アミノグリコシド系 | ストレプトマイシン | リボソーム50Sサブユニット、23SrRNA阻害 |
リンコマイシン系 | リンコマイシン | リボソーム50Sサブユニット阻害 |
ホスホマイシン系 | ホスホマイシン | MurA阻害、細胞壁(ペプチドグリカン)に必要なムレイン合成を阻害 |
テトラサイクリン系 | テトラサイクリン | リボソーム30Sサブユニット阻害 |
クロラムフェニコール系 | クロラムフェニコール | リボソーム50Sサブユニット阻害 |
マクロライド系 | エリスロマイシン | |
ケトライド系 | テリスロマイシン | |
ポリペプチド系 | コリスチン | 細胞壁の傷害、合成阻害など |
グリコペプチド系 | バンコマイシン | 細胞壁(ペプチドグリカン)に必要なムレイン合成を阻害 |
キノロン系 | キノロン | DNAジャイレース阻害 |
ニューキノロン系 | フルオロキノロン | DNAジャイレース阻害 |
サルファ剤 | サルファメソキサゾール | 葉酸合成阻害 |
オキサゾリジノン系 | リネゾリド | リボソーム50Sサブユニット阻害 |
「〜マイシン」という命名が多いです。これは放線菌(Streptomyces属)が産出する抗菌剤を意味するのだとか。なぜ放線菌が数多の抗生物質を作り出すのか、不思議ですね?
細菌に存在する生命維持の機構も、いくつか種類があるので、万能の抗生物質はありません。理解しているのはこのくらいで、作用原理は書き写してみたものの、詳しい仕組みは知りません。
付け焼刃の知識ですが、抗生物質の基本的な戦略は、
「人間には存在せず、細菌にしか存在しない生命維持もしくは増殖機構を妨害する」
当たり前ですよね、人間の生命活動まで妨害したら、細菌と一緒に人間まで死んでしまう(=副作用)ので、薬として成立しません。
例えば、リボソームはmRNAからたんぱく質を生成する器官です。リボソームの働きを妨害すると生命維持に必要なたんぱく質が作れなくなって、細胞は死んでしまいます。リボソームは真核生物(人間)の細胞にも、原核生物(細菌)の細胞にも存在しますが、大きさと形が異なります。真核生物は60S, 40Sという大きさ、原核生物は50S, 30Sという大きさのサブユニットを持っています(参考: 生命の重要な機構である「リボソーム」 | 株式会社A&T)。
ですので50S, 30Sのサブユニットだけを妨害するような物質を使えば、細菌のみ攻撃して退治できるという寸法です。賢い戦略ですよね。
しかし世の中はそう単純ではなく、真核生物は細胞内にミトコンドリアを持っています。ミトコンドリアは酸素を使いエネルギーを生成するための、非常に大事な器官です。ミトコンドリアは少々変わった器官で、太古の昔に真核生物の細胞内に共生した細菌(リケッチアに近い種類)が祖先と考えられています。
細菌が先祖のミトコンドリアは、細菌と似たようなリボソームを持っています。そのため抗生物質が間違ってミトコンドリアのリボソームまで攻撃してしまい、人間の具合まで悪くなる(=抗生物質の副作用)原因となっているそうです。
真核生物の中に原核生物が融合しているなんて、何とも場当たり的でムチャクチャに思えますが、ムチャクチャなのに驚きの精密な機構があったりして、生物って面白いですね。
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