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2021年9月20日

RISC-Vのcmodel

目次: RISC-V

RISC-Vにはcode modelという概念があり、ざっくり言うとメモリアクセスやジャンプの際に参照するアドレスの作り方を指定します。medlowとmedanyの2つがありmedlowがデフォルトです。

詳しくはGCCのマニュアル RISC-V Options (Using the GNU Compiler Collection (GCC)) やSiFiveのエンジニアによる解説 All Aboard, Part 4: The RISC-V Code Models - SiFive を読んでいただくのが良いかと思いますが、ここではどんなときにエラーになるかに重点を置いて、いくつか例を挙げたいと思います。

medlow

モデルmedlowは32bit絶対値でアドレスを指定します。具体的にはlui命令とロード命令などの12ビットオフセットを使います。lui命令とは20ビットのimmediateを12ビット左シフトして、符号拡張する命令のことです。

medlow指定時に生成されるコードの例
lui a1, 0x12345    # 12ビットシフトされた値0x12345000がa1に格納される
ld a0, 0x678(a1)   # アドレスa1 + 0x678 = 0x12345000 + 0x678からa0に値をロードする

このようなコードが生成されます。絶対値は -2GB〜 +2GBまでしか生成できませんので、全てのシンボルが範囲に収まっている必要があります。32bitアドレスを使っている場合は全てのアドレス範囲をカバーできますが、64bitアドレスを使っている場合は0x00000000_00000000〜0x00000000_7fffffffまたは0xffffffff_80000000〜0xffffffff_ffffffffのアドレス範囲にシンボルを配置しなければなりません。範囲外にシンボルを配置しようとすると、

medlowのアドレス生成範囲外となるケース

// a.c

extern volatile int *hoge;

void _start(void)
{
	*hoge = 1;
}


/* a.ld */

OUTPUT_ARCH("riscv")
ENTRY(_start)

SECTIONS
{
	PROVIDE(hoge = 0x100000000);    /* 0x1_00000000はmedlowの範囲外 */
}
medlowのアドレス生成範囲外となるケース(リンク結果)
$ riscv64-zephyr-elf-gcc -march=rv64gc -Wall -g -mabi=lp64d -mcmodel=medlow -nostdlib -T a.ld a.c --save-temp

a.o: in function `_start':
test-medany/a.c:5:(.text+0x6): relocation truncated to fit: R_RISCV_HI20 against symbol `hoge' defined in *ABS* section in a.out
collect2: error: ld returned 1 exit status

リンカーがエラーを出します。hogeのアドレスを変更し -2GB〜 +2GBの範囲(0xffffffff_80000000や0x00000000_70000000など)にするとリンクが通ります。

medany

もう1つのmedanyは、PC相対でアドレス指定します。具体的にはアドレスの場合はauipc命令とaddi命令、ジャンプの場合はauipc命令とjalr命令の12ビットオフセットを使います。auipc命令とは、20ビットのimmediateを12ビット左シフトして、符号拡張したあとPCに加算する命令のことです。

PCが0x1_40000000付近でhogeが0x1_a89abcd0だとすると、

medany指定時に生成されるコードの例
アドレスの場合

140000006: auipc   a5,0x689ac    # 12ビットシフトされた値0x689ac000 + PC 0x1_40000006 = 0x1_a89ac006がa5に格納される
14000000a: addi    a5,a5,-822    # 0x1_a89ac006 - 822 = 0x1_a89abcd0 = hogeのアドレスがa5に格納される


ジャンプの場合

140000008: auipc   ra,0x689ac    # 12ビットシフトされた値0x689ac000 + PC 0x1_40000008 = 0x1_a89ac008がraに格納される
14000000c: jalr    -824(ra)      # ra 0x1_a89ac006 - 824 = 0x1_a89abcd0 = hogeのアドレスにジャンプする

このようなコードが生成されます。相対アドレスはPCの現在地 -2GB〜 +2GBまでしか生成できません。medlowモデルより対応できる範囲は広がったものの、いかなるアドレスでも対応できるわけではないです。例えばコード領域とデータ領域をあまりにも遠くすると、

medanyのアドレス生成範囲外となるケース

// a.c

extern volatile int *hoge;

void _start(void)
{
	*hoge = 1;
}


/* a.ld */

OUTPUT_ARCH("riscv")
ENTRY(_start)

MEMORY
{
	TEXT(rx)  : ORIGIN = 0x0000000140000000, LENGTH = 0x10000
}

SECTIONS
{
	/* hogeをコード領域から2GB以上離して配置する */
	PROVIDE(hoge = 0x1c89abcd0);

	/* コード領域を0x1_40000000にする */
	.text : {
		*(.text*);
	} > TEXT
}
medanyのアドレス生成範囲外となるケース(リンクの結果)
$ riscv64-zephyr-elf-gcc -march=rv64gc -Wall -g -mabi=lp64d -mcmodel=medany -nostdlib -T a.ld a.c --save-temp

a.o: in function `_start':
test-medany/a.c:5:(.text+0x6): relocation truncated to fit: R_RISCV_PCREL_HI20 against symbol `hoge' defined in *ABS* section in a.out
collect2: error: ld returned 1 exit status

シンボルhogeが位置するアドレスは絶対値 -2GB〜 +2GBの範囲外であり、コード領域からも離れているためPC相対 -2GB〜 +2GBの範囲外でもあります。よってmedlowモデルでもmedanyモデルでもリンクエラーとなります。

編集者:すずき(2021/09/21 23:04)

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2021年9月16日

ワクチン2回目

前回(2021年8月26日の日記参照)同様に自治体の接種会場に行きました。ワクチンは当然同じでファイザー製です。

医療従事者のみなさま

前回同様に看護師を始めとした医療従事者の皆様は非常に親切かつ効率的に働いていました。ありがてぇ。

問診の先生はやっぱりお疲れモードな雰囲気でした。無理はしないでください……。

肩が痛い

前回はワクチンを打ってしばらく経ってから肩が痛くなりましたが、今回は打った直後から肩が痛いです。明日はどうなるんだろうか、これ……。

編集者:すずき(2021/09/17 01:59)

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2021年9月13日

Zephyrのコンテキストスイッチ

目次: Zephyr

RISC-V向けZephyrの新しいコンテキストスイッチ(CONFIG_USE_SWITCH=y)を実装しているのですが、浮動小数点演算つまりFPUを使うスレッドを生成するとハングします。調べてみると、私が実装している場所の外にある、新しいコンテキストスイッチ(zephyr/kernel/include/kswap.hのdo_swap() 関数)の実装が今まで(CONFIG_USE_SWITCH=n)と違うように見えます。まだ確証はないですけど。

従来の処理arch_swap() では、現在のスレッド(_kernel.current)がコンテキストスイッチ(arch_swap() 内のシステムコール)の内部で旧 → 新に置き換えます。つまりcurrentは切替「前」のスレッドを指している状態でコンテキストスイッチが始まります。

ところがdo_swap() の場合、現在のスレッド(_kernel.current)がコンテキストスイッチ(arch_switch() 関数)を呼ぶ「前」に旧 → 新スレッドに置き換えます。つまりcurrentは切替「後」のスレッドを指している状態でコンテキストスイッチが始まります。

ハングに至るメカニズム

RISC-V Zephyr(他のアーキテクチャも同じかな?)ではFPU使えるスレッドと使えないスレッドを使い分けることができます。コンテキストスイッチ処理では、currentスレッドがFPUを使うか使わないかにより処理を変えています。

  • FPUを使う: currentの浮動小数点レジスタをスタックに退避する処理を実行
  • FPUを使わない: 退避する処理はスキップされる

私が実装したコンテキストスイッチも当然同じように実装したのですが……。先ほど説明したようにdo_swap() はcurrentを切替「後」のスレッドに設定するため、こんな悲劇が起きます。

  • 旧スレッド(FPU使用不可)→ 新スレッド(FPU使用可)の明示的コンテキストスイッチを行う
  • do_swap() がcurrentを新スレッド(FPU使用可)に変える
  • コンテキストスイッチ
  • 旧スレッド(FPU使用不可)で実行しているのに、currentは新スレッド(FPU使用可)になっている
  • 浮動小数点レジスタを退避しようとして「不正命令例外」で死ぬ

原因の一端は掴めたものの、どうして他のアーキテクチャは困っていないのか?do_swap() の実装は意図的なのか?良くわかりません……。

編集者:すずき(2023/09/24 12:03)

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2021年9月10日

C言語の標準的な標準ではない機能

目次: C言語とlibc

C言語のmath.hヘッダには、円周率πを表すマクロM_PIが定義されています。しかしこのマクロ、コンパイラに -std=c99やc11を指定すると使えなくなるんですね。C言語通には常識かもしれませんが、個人的にハマったのでメモしておきます。

M_PIを使ったプログラム

#include <math.h>

int main(void)
{
	return M_PI;
}
C99としてコンパイルするとM_PIは宣言されていないと言われる
$ gcc -Wall -std=c99 a.c

a.c: In function ‘main’:
a.c:5:9: error: ‘M_PI’ undeclared (first use in this function)
    5 |  return M_PI;
      |         ^~~~
a.c:5:9: note: each undeclared identifier is reported only once for each function it appears in

もしc99やc11でもM_PIを使いたい場合は、math.hをインクルードする前に_DEFAULT_SOURCE(_GNU_SOURCEでも良いです)をdefineすると使えるようになります。

M_PIを使ったプログラム、C99でも動く版

#define _DEFAULT_SOURCE

#include <math.h>

int main(void)
{
	return M_PI;
}

使えるようになりました。

編集者:すずき(2023/02/04 20:27)

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