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2020年1月26日

C言語の未定義動作と最適化

目次: C言語とlibc

くそ長いですが、C言語の未定義動作怖いね、printfでタイミング以外も動き変えられるよ、という話です。

環境ですがx86_64向けDebian GNU/Linux 9.2で実行しています。またGCCのバージョンはgcc (Debian 9.2.1-22) 9.2.1 20200104です。

未定義動作のため、コンパイラの種類や、GCCのバージョンにより結果が変わると思われます。お家のマシンで試すならご留意ください。

1番目の実験

この日記の最後に貼ったプログラム(このプログラムをコンパイルすると、激しい警告が出ます)をgcc -Wall -O2 a.c && ./a.outのように実行すると、

1番目の実験: あれ?バッファオーバーランは…?
0: 0 0 0
1: 0 1 0
2: 0 2 0
3: 0 3 0
4: 0 4 0
...
47: 0 47 0
48: 0 48 0
49: 0 49 0
1770: 1770

こうなります。0〜59の和は1770です。あってます。良かったですね。

なに?そういう問題じゃない?「なぜarray終端を超えてguard2にバッファオーバーランしない?」と考えた方、するどいです。しかし世の中そう単純ではありません。

2番目の実験

10行目のprintfのコメントを外してローカル変数のアドレスを表示させると、

2番目の実験: 10行目のprintfを有効、突然のバッファオーバーラン
0x7ffd9b348a10 0x7ffd9b348ae0 0x7ffd9b348bb0
0: 0 0 52
1: 0 1 53
2: 0 2 54
3: 0 3 55
4: 0 4 56
...
45: 0 45 0
46: 0 46 0
47: 0 47 0
48: 0 48 0
49: 0 49 0
1770: 1770

こうなります。突然オーバーランするようになりました。printfが何かしたんでしょうか、不思議ですね?

3番目の実験

どうしてforループを無意味に2分割したのか?くっつけてみたらわかります。Segmentation Fault します。

3番目の実験: ループを1つにするとクラッシュ
0: 0 0 0
1: 0 1 0
2: 0 2 0
3: 0 3 0
4: 0 4 0
...
45: 0 45 0
46: 0 46 0
47: 0 47 0
48: 0 48 0
49: 0 49 0
Segmentation fault

もう意味不明ですよね。何が起こっているんでしょう?

タネ明かし

この60回のforループは「配列の終端を超えたアクセス」がC言語仕様上の未定義動作なので、何が起きても正しい、つまりどの結果も正しいです。

これだけだと、何言ってんのか意味不明だと思うので「printf有効/無効」「forループ1つ/2つ」に着目して説明します。

1番目の実験(printf無効、forループ2つ)
プログラムを見るとguard1, guard2に対してmemset 0した後、参照のみで代入しません。コンパイラはguard1, guard2をスタックに配置せず、配列への参照(guard1[i], guard2[i])は全て「定数の0」に置換します。
(GIMPLEを見たら033t.fre1で0に置換されるようです)
このときarrayのバッファオーバーランはスタックに退避されているレジスタ値などを書きつぶしますが、ギリギリ続行できています。
2番目の実験(printf有効、forループ2つ)
1番目と変わりないと思いきや、printfがguard1, guard2のアドレス参照をするため、定数の0に置換すると返せるアドレスがなくなり結果が変わってしまいます。このため、guard1, guard2はスタックに配置されます。
このときarrayのバッファーオーバーランは隣に配置されたguard2を書きつぶします。
3番目の実験(printf無効、forループ1つ
いわゆる偶然の結果です。1番目と同様にguard1, guard2はスタックに配置されず、arrayのバッファオーバーランによりスタックに退避したレジスタ値などが壊れます。forループが1つ減ったことでスタックに退避されるレジスタが1つ減って(8バイト分余裕がなくなる)、1番目の実験でギリギリリターンアドレスを壊されずに耐えていたものが、耐えられなくなります。

3番目の実験の裏打ちとして、試しにループ回数を80回くらいにするとforループが1つだろうが2つだろうが、リターンアドレスがぶっ壊れてSegmentation Fault します。10行目のprintfを有効にするとguard1, guard2がスタックに配置されて、受け止めてくれるので、80回でも耐えます。

難解なC言語仕様、曖昧な利用者の理解、過激なコンパイラの最適化、が招く結末

バッファオーバーランを期待していた向きには残念(?)かもしれませんが、guard1, guard2はメモリ上に置いても置かなくても、C言語仕様に矛盾しないなら、どっちでも良いです。もっというとC言語仕様に矛盾しないなら、コンパイラの最適化は何をやってもOK です。

この「C言語仕様に矛盾しないなら」はおそらくコンパイラ開発者には常識なのでしょうけども、C言語の仕様は人間に優しくないのと、大多数のC言語プログラマは言語仕様(特に未定義動作)を理解しておらず、何となく使っています。

難解な仕様、曖昧な理解、過激な最適化の相乗効果により、今日も世界のどこかで
「最適化で動きが変になっちゃったよ……。どうして…どうして……?」
とコンパイラとすれ違ったプログラマが泣いているでしょう。。。

参考

大したものではありませんが、ソースコードを載せておきます。

実験用ソースコード

#include <stdio.h>
#include <string.h>

int undefined()
{
	int guard1[50];
	int array[50];
	int guard2[50];
	int sum = 0, i;

	memset(guard1, 0, sizeof(guard1));
	memset(guard2, 0, sizeof(guard2));
	//printf("%p %p %p\n", &guard1[0], &array[0], &guard2[0]);

	for (i = 0; i < 60; i++) {
		array[i] = i;
	}

	for (i = 0; i < 60; i++) {
		sum += array[i];
	}

	for (i = 0; i < 50; i++) {
		printf("%2d: %d %d %d\n", i, guard1[i], array[i], guard2[i]);
	}

	return sum;
}

int main(int argc, char *argv[])
{
	int sum1 = 0, sum2 = 0, i;

	sum1 = undefined();

	for (i = 0; i < 60; i++) {
		sum2 += i;
	}

	printf("%d: %d\n", sum1, sum2);

	return 0;
}
編集者:すずき(2023/02/04 20:17)

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