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モナコインと CubeHash

先日(2017年 11月 24日の日記参照)CPU によるモナコインのマイニング cpuminer-multi について調べました。先日の成果としては、

  • CubeHash というハッシュ関数がとびきり時間が掛かっている
  • cpuminer-multi は既に手動で最適化されている
  • CubeHash を素朴に実装したら遅い
  • 素朴な実装でもコンパイラの最適化で cpuminer-multi の実装と同等の速度が出る

CubeHash を適当に SSE 化して遊んでいたところ、基本的には非常に遅く(改変前 80kH/s、改変後 30〜60kH/s)なりますが、突然 100kH/s に速くなるポイントがありました。なお、我が家のマシンは AMD A10-7800/3.5GHz です。

コンパイラの本気

急激に速くなった理由はおそらくコンパイラです。

途中までしか SSE 化していないはずなのに、逆アセンブラで見ると 1ラウンドが全てベクタ演算命令で記述されていること、また、コンパイラの最適化レベルを変えずに(Ofast)、ベクタ最適化だけ無効にすると、速度が 67kH/s に落ちることから、

  • 私が中途半端に SSE を使った
  • 変数間の依存性か何かが途切れた
  • コンパイラが残りの部分を全部ベクタ化できると判断
  • 1ラウンド全て SSE or AVX 化された

このようなメカニズムだろうと思っています。

平たく言えばコンパイラが本気出していなかっただけですね。1ラウンドを全てベクタ演算化すると、なんと 120kH/s も速度が出ました。

元のコードの 1.5倍の速度を拝めるとは思ってもいませんでした。何でもやってみるものですね!

Intel Intrinsics

SSE 化には Intel Intrinsics(マニュアル)を使いました、というより、Intrinsic が無かったら SSE 化をしようと思わないです。

Intrinsic はかなり強引ですけど、一応 C の関数として定義されており、人間が考えると面倒なこと(SSE レジスタ割り当て、退避など)は全てコンパイラがやってくれるため、大変便利です。

インラインアセンブラの一種とも言えますが、gcc のインラインアセンブラほど苦痛はありません。SSE/AVX を使いたいだけなら Intrinsic がおススメです。

手で頑張ってみよう

最初 CubeHash の STEP5(キューブの上面と下面の入れ替え操作)をシフトと OR で計算していたのですが、コンパイラが出す命令を見ていたら shuffle という素敵な命令を使っていたので、そっちで書き直してみました。

コンパイラ任せでも良いのですが、せっかく途中まで書いたので、全部 SSE 化しました。Before と After はこんな感じです。

SSE2 を使った CubeHash の素朴な実装

#define SSE_ROTL(x, n) do { \
		__m128i mw0, mw1; \
		mw0 = _mm_slli_epi32((x), (n)); \
		mw1 = _mm_srli_epi32((x), 32 - (n)); \
		x = _mm_or_si128(mw0, mw1); \
	} while (0);

#define SSE_SWP(a, b) do { \
		__m128i mw; \
		mw = b; \
		b = a; \
		a = mw; \
	} while (0);

#define ROUND_ONE    do { \
		__m128i mx0, mx4, mx8, mxc; \
		__m128i mxg, mxk, mxo, mxs; \
		mx0 = _mm_load_si128((void *)&x0); \
		mx4 = _mm_load_si128((void *)&x4); \
		mx8 = _mm_load_si128((void *)&x8); \
		mxc = _mm_load_si128((void *)&xc); \
		mxg = _mm_load_si128((void *)&xg); \
		mxk = _mm_load_si128((void *)&xk); \
		mxo = _mm_load_si128((void *)&xo); \
		mxs = _mm_load_si128((void *)&xs); \
		/* STEP1 */ \
		mxg = _mm_add_epi32(mx0, mxg); \
		mxk = _mm_add_epi32(mx4, mxk); \
		mxo = _mm_add_epi32(mx8, mxo); \
		mxs = _mm_add_epi32(mxc, mxs); \
		/* STEP2 */ \
		SSE_ROTL(mx0, 7); \
		SSE_ROTL(mx4, 7); \
		SSE_ROTL(mx8, 7); \
		SSE_ROTL(mxc, 7); \
		/* STEP3 */ \
		SSE_SWP(mx0, mx8); \
		SSE_SWP(mx4, mxc); \
		/* STEP4 */ \
		mx0 = _mm_xor_si128(mx0, mxg); \
		mx4 = _mm_xor_si128(mx4, mxk); \
		mx8 = _mm_xor_si128(mx8, mxo); \
		mxc = _mm_xor_si128(mxc, mxs); \
		/* STEP5 */ \
		mxg = _mm_shuffle_epi32(mxg, 0x4e); \
		mxk = _mm_shuffle_epi32(mxk, 0x4e); \
		mxo = _mm_shuffle_epi32(mxo, 0x4e); \
		mxs = _mm_shuffle_epi32(mxs, 0x4e); \
		/* STEP6 */ \
		mxg = _mm_add_epi32(mx0, mxg); \
		mxk = _mm_add_epi32(mx4, mxk); \
		mxo = _mm_add_epi32(mx8, mxo); \
		mxs = _mm_add_epi32(mxc, mxs); \
		/* STEP7 */ \
		SSE_ROTL(mx0, 11); \
		SSE_ROTL(mx4, 11); \
		SSE_ROTL(mx8, 11); \
		SSE_ROTL(mxc, 11); \
		/* STEP8 */ \
		SSE_SWP(mx0, mx4); \
		SSE_SWP(mx8, mxc); \
		/* STEP9 */ \
		mx0 = _mm_xor_si128(mx0, mxg); \
		mx4 = _mm_xor_si128(mx4, mxk); \
		mx8 = _mm_xor_si128(mx8, mxo); \
		mxc = _mm_xor_si128(mxc, mxs); \
		/* STEP10 */ \
		mxg = _mm_shuffle_epi32(mxg, 0xb1); \
		mxk = _mm_shuffle_epi32(mxk, 0xb1); \
		mxo = _mm_shuffle_epi32(mxo, 0xb1); \
		mxs = _mm_shuffle_epi32(mxs, 0xb1); \
		_mm_store_si128((void *)&x0, mx0); \
		_mm_store_si128((void *)&x4, mx4); \
		_mm_store_si128((void *)&x8, mx8); \
		_mm_store_si128((void *)&xc, mxc); \
		_mm_store_si128((void *)&xg, mxg); \
		_mm_store_si128((void *)&xk, mxk); \
		_mm_store_si128((void *)&xo, mxo); \
		_mm_store_si128((void *)&xs, mxs); \
	} while (0)

前回と同様に cpuminer-multi のマクロにはめ込めるように実装しています。

実行例
$ ./cpuminer -a lyra2rev2 -t 1 --benchmark
** cpuminer-multi 1.3.3 by tpruvot@github **
BTC donation address: 1FhDPLPpw18X4srecguG3MxJYe4a1JsZnd (tpruvot)

[2017-12-01 02:21:05] 1 miner threads started, using 'lyra2rev2' algorithm.
[2017-12-01 02:21:06] CPU #0: 140.04 kH/s
[2017-12-01 02:21:06] Total: 140.04 kH/s
[2017-12-01 02:21:10] Total: 145.47 kH/s
[2017-12-01 02:21:15] CPU #0: 145.32 kH/s
[2017-12-01 02:21:15] Total: 145.32 kH/s

CubeHash の最終 160ラウンドは一番のボトルネックだった個所だけあって、改善効果はかなり大きいですね。

[編集者: すずき]
[更新: 2017年 12月 1日 02:24]
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ARM で CubeHash

先日(2017年 11月 30日の日記参照)CPU によるモナコインというか Lyra2REv2 の計算で、ボトルネックとなっていた CubeHash を SSE 化してみました。今回は ARM でチャレンジしてみます。

Raspberry Pi 3(ARM Cortex A53/1.2GHz x 4)で CPU マイナーを実行してみるとたったの 8kH/s しか出ません。4コア並列で動作させると 32kH/s となり、きっちり 4倍になるのは素晴らしい(※)ですが、x64 CPU の 1コアにも敵わないです。

NEON にも Intrinsics があることを知ったので、不親切な NEON 命令のマニュアルと戦いながら、CubeHash を NEON 化してみたところ、10kH/s ほどになりました。

NEON を使った CubeHash の素朴な実装

#if defined(__ARM_NEON__)
#  include <arm_neon.h>
#endif

//...

#define NEON_ROTL(x, n) do { \
		uint32x4_t mw0, mw1; \
		mw0 = vshlq_n_u32((x), (n)); \
		mw1 = vshrq_n_u32((x), 32 - (n)); \
		x = vorrq_u32(mw0, mw1); \
	} while (0);

#define NEON_SWP(a, b) do { \
		uint32x4_t mw; \
		mw = b; \
		b = a; \
		a = mw; \
	} while (0);

#define NEON_STEP5(x) do { \
		uint64x2_t mw; \
		mw = vreinterpretq_u64_u32((x)); \
		mw = vextq_u64(mw, mw, 1); \
		x = vreinterpretq_u32_u64(mw); \
	} while (0);

#define ROUND_ONE_NEON    do { \
		mxg = vaddq_u32(mx0, mxg); \
		mxk = vaddq_u32(mx4, mxk); \
		mxo = vaddq_u32(mx8, mxo); \
		mxs = vaddq_u32(mxc, mxs); \
		NEON_ROTL(mx0, 7); \
		NEON_ROTL(mx4, 7); \
		NEON_ROTL(mx8, 7); \
		NEON_ROTL(mxc, 7); \
		NEON_SWP(mx0, mx8); \
		NEON_SWP(mx4, mxc); \
		mx0 = veorq_u32(mx0, mxg); \
		mx4 = veorq_u32(mx4, mxk); \
		mx8 = veorq_u32(mx8, mxo); \
		mxc = veorq_u32(mxc, mxs); \
		NEON_STEP5(mxg); \
		NEON_STEP5(mxk); \
		NEON_STEP5(mxo); \
		NEON_STEP5(mxs); \
		mxg = vaddq_u32(mx0, mxg); \
		mxk = vaddq_u32(mx4, mxk); \
		mxo = vaddq_u32(mx8, mxo); \
		mxs = vaddq_u32(mxc, mxs); \
		NEON_ROTL(mx0, 11); \
		NEON_ROTL(mx4, 11); \
		NEON_ROTL(mx8, 11); \
		NEON_ROTL(mxc, 11); \
		NEON_SWP(mx0, mx4); \
		NEON_SWP(mx8, mxc); \
		mx0 = veorq_u32(mx0, mxg); \
		mx4 = veorq_u32(mx4, mxk); \
		mx8 = veorq_u32(mx8, mxo); \
		mxc = veorq_u32(mxc, mxs); \
		mxg = vrev64q_u32(mxg); \
		mxk = vrev64q_u32(mxk); \
		mxo = vrev64q_u32(mxo); \
		mxs = vrev64q_u32(mxs); \
	} while (0)

#define SIXTEEN_ROUNDS_NEON   do { \
		int j; \
		uint32x4_t mx0, mx4, mx8, mxc; \
		uint32x4_t mxg, mxk, mxo, mxs; \
		mx0 = vld1q_u32((void *)&x0); \
		mx4 = vld1q_u32((void *)&x4); \
		mx8 = vld1q_u32((void *)&x8); \
		mxc = vld1q_u32((void *)&xc); \
		mxg = vld1q_u32((void *)&xg); \
		mxk = vld1q_u32((void *)&xk); \
		mxo = vld1q_u32((void *)&xo); \
		mxs = vld1q_u32((void *)&xs); \
		for (j = 0; j < 16; j ++) { \
			ROUND_ONE_NEON; \
		} \
		vst1q_u32(&x0, mx0); \
		vst1q_u32(&x4, mx4); \
		vst1q_u32(&x8, mx8); \
		vst1q_u32(&xc, mxc); \
		vst1q_u32(&xg, mxg); \
		vst1q_u32(&xk, mxk); \
		vst1q_u32(&xo, mxo); \
		vst1q_u32(&xs, mxs); \
	} while (0)

//...

#if defined(__ARM_NEON__)
#  define ROUND_ONE    ROUND_ONE_NEON
#  define SIXTEEN_ROUNDS    SIXTEEN_ROUNDS_NEON
#else
#  define ROUND_ONE    ROUND_ONE_SLOW
#  define SIXTEEN_ROUNDS    SIXTEEN_ROUNDS_SLOW
#endif

前回と同様に cpuminer-multi のマクロに無理矢理はめ込んで実装しています。NEON を触るのは初めてで、非効率的な書き方になっているかもしれません。お気づきの点があれば教えてくださいませ。

(※)AMD A10-7600 は昨日書いた通り 1コア 145kH/s ですが、4コア並列だと 145 x 4 = 580kH/s とはならず、少し効率が落ち 490〜500kH/s ほどになります。

コンパイラの本気はどこ行った

前回 SSE 化したときは 1ラウンドの処理だけ書き換えれば事足りましたが、今回 NEON 化したときは 16ラウンドのループも書き換える必要がありました。

何故かというと x64 と違って armhf の場合、コンパイラがあまり良い結果を出力してくれないからです。gcc-7.2 x64 の場合、

  • load
  • add
  • xor
  • store

このような処理をループさせても、生成されたバイナリの逆アセンブルを見ると、

  • load
  • add
  • xor
  • ※に戻る
  • store

以上のように load/store の無駄を検知してループ「外」に追い出してくれました。しかし gcc-4.9 armhf の場合、ループ「内」に load/store が残ってしまい、かなり遅くなります。

原因として gcc のバージョンが古い、アーキテクチャの最適化がこなれてない、NEON の Intrinsics を使うと最適化が制限される、などいくつか考えられますが、今のところ分かりません。gcc-7 にしたらコンパイラが賢くやってくれるようになれば一番楽ですけどね……。

[編集者: すずき]
[更新: 2017年 12月 3日 01:35]
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