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2007年12月12日

Linux kernelはあなたを廃止しますです

目次: Linux

たまにLinux kernelをコンパイルしていると 'func' is deprecated. と言われることがあります。自分が見かけたのは、kernel/intermodule.cというファイルのinter_module_registerという関数でした。(昔の2.6系には残っていましたが、最新版(2.6.23.8)では存在しません)

見てみると関数の宣言に __deprecatedと書いてあり、define部分を探すとinclude/linux/compiler.hに書いてあります。しかし宣言の中身は空、というのもgccだけがdeprecated警告をするので、include/linux/compiler-gcc.hの方に書いてあるんですね。


#define __deprecated        __attribute__((deprecated))

こんな定義です。関数プロトタイプに対して __attribute__((deprecated)) と書いておくと、その関数を使った人に対して冒頭で述べたような警告がでます。

これはコードの作者あるいは古いコードをいつまでも使っている人への警告でしょうね。もう使われない(deprecated)関数をお使いのようですけど、いずれなくなってあなたのコードは動かなくなりますよ!それまでには直してくれよ、ヨロシクね!ってことです。

あなたを信じていますです

他にcompiler.hで面白いなと思うのは、likelyとunlikelyマクロでしょうか。以下のようなマクロです。


#define likely(x)       __builtin_expect(!!(x), 1)
#define unlikely(x)     __builtin_expect(!!(x), 0)

キーワード __builtin_expectはコンパイラに対して、第一引数の結果が第二引数の結果になるときに高速動作するコードを出力しなさい、とコンパイラにヒントを与えます。ヒントが正しければプログラムが高速に動作するはずです。

具体的には likelyマクロは引数xが真であるとき、unlikelyは逆にxが偽であるときに高速動作せよと、コンパイラに指示しています。ではlikelyとunlikelyの効果を以下の実験コードで確かめてみましょう。


int func_likely();
int func_unlikely();

volatile int i;

int main(int argc, char *argv[])
{
  func_likely();
  func_unlikely();

  return 0;
}

int func_likely()
{
  int c = 0;

  while (likely(i)) {
    c++;
  }

  return c;
}

int func_unlikely()
{
  int c = 0;

  while (unlikely(i)) {
    c++;
  }

  return c;
}

注目点はfunc_likelyとfunc_unlikelyです。ループの条件に付けたlikelyマクロとunlikelyマクロ以外に違いがないことを確認していただけると思います。これをgccでコンパイルしてみましょう。2.95でも対応していたと思いますが、3.xくらいのgccなら確実だと思います。

あとコンパイル時に -O2を付けることを忘れずに。

$ emacs a.c
$ gcc --version
gcc (GCC) 4.1.2 20061115 (prerelease) (Debian 4.1.1-21)
$ gcc -O2 -S a.c
$ cat a.s
(コードは一部抜粋です)

(func_likelyの説明)
カウント文と分岐文が連続している。条件は真の可能性が高いと信じて
いるから、「カウント分」「条件判定」「分岐」という一連の命令を連
続して並べる。これにはキャッシュに乗りやすい、プリフェッチしやす
いなど様々な理由があると思う。
一方、リターン文は遠くに配置される。これはコンパイラにとって、ルー
プの条件が成立しないのは、稀なケースであって滅多に実行しないと信
じているから。
func_likely:
        jmp     .L8        ;(条件判定へ)
        .p2align 4,,7
.L9:
        incl    %edx       ;(カウント文)
.L8:
        movl    i, %eax
        testl   %eax, %eax ;(i != 0の条件チェック)
        jne     .L9        ;(分岐文、真だったらループの先頭へ)
        popl    %ebp
        movl    %edx, %eax
        ret                ;(リターン文)


(func_unlikelyの説明)
カウント文とリターン文が連続している。
分岐文もあるが真じゃない可能性が高いと信じているので、条件は成立
せずに即座に終了するはずである。
逆に、条件が成立するときは遠くに置いた判定文へ飛ぶ。これはコンパ
イラにとって、条件が成立することが稀なケースであって、滅多に実行
しないと信じているから。
func_unlikely:
.L2:
        movl    i, %eax
        testl   %eax, %eax ;(i != 0の条件チェック)
        jne     .L3        ;(分岐文、真だったらカウント文へ)
        popl    %ebp
        movl    %edx, %eax
        ret                ;(リターン文)
.L3:
        incl    %edx       ;(カウント文)
        jmp     .L2        ;(条件判定へ)

ヒントがどういう効果をおよぼすか、ご理解いただけたかと思います。このくらいの小さい関数では効率が変わらないので、例としてはあまり良くないかも…。

最後に !!(x) と引数を二重否定している理由ですが、1ではないけど真(5とか10とか -1とか)である値を1に正規化するためです。以下の例を見ていただくとわかるかと思います。

x = 5      //真だけど1ではない
!(x) => 0  //偽
!!(x) => 1 //真で1である

お前の説明じゃまったくわからんぞ!!って人はGoogle先生にも聞きましょう。有名なマクロなので、他のサイトでも紹介されています。

編集者:すずき(2023/04/29 21:56)

コメント一覧

  • hdkさん(2007/12/16 14:31)
    >このくらいの小さい関数では効率が変わらないので
    というので alarm(1) で 1 秒間 i=1 を保つようにして両方の関数を試したら、結果は倍くらいの差が出ていてビビリました。(Opteron ですが。)
  • すずきさん(2007/12/16 17:45)
    >hdk氏
    貴重な実験結果ありがとうございます。うーむ、倍とはすごい。likely/unlikely マクロ恐るべし。

    #そして、自分が適当なことを書き散らしているのがバレました…。アイタタタ。
  • すずきさん(2007/12/16 18:13)
    こちらも試してみました。Linuxマシンがなかったので、手持ちのノート(Core Solo U1500/1.33GHz)の Colinux 上ですけど…。
    likely, unlikely ともに 6億回くらい回りました。有意な差はないようです。
  • すずきさん(2007/12/16 19:28)
    追試、デスクトップ(Athlon 64 3000+/1.8GHz)の VirtualBox 上の Knoppix
    likely : 5億2千万
    unlikely: 4億2千万(likely の 80%程度)
    結構差がついてます。AMD 系だと今回の最適化が効果覿面ってところか?
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